個人事業主の手取り計算 — 売上から実際に残る金額の全体像
最終更新: 2026-05-28
目次
個人事業主の「手取り」は、売上から経費を引いた金額ではありません。所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料・消費税・個人事業税という 6 つの支出 を差し引いて、はじめて手元に残る金額になります。この記事では令和8年度 (2026 年度) の最新税制で手取り計算の全体像を整理し、売上 400〜1,000 万円のケース別に手取りの目安を早見表にまとめます。
正確な金額を出すには、居住地や控除の組み合わせまで反映したシミュレーションが必要です。記事を読んだら、ぜひ CashOnHand のシミュレータ で自分の条件を入力してみてください。
結論: 売上別の手取り早見表
経費率 30%・単身・青色申告 65 万円控除・国民健康保険・課税事業者 (インボイス 2 割特例) を仮定した、令和8年度のおおまかな手取りです。国民健康保険料は自治体差が大きいため、ここでは全国平均的な水準で試算しています。
| 売上 | 経費 (30%) | 事業所得 | 6 つの支出合計 | 年間手取り (目安) |
|---|---|---|---|---|
| 400 万円 | 120 万円 | 280 万円 | 約 60 万円 | 約 220 万円 |
| 600 万円 | 180 万円 | 420 万円 | 約 110 万円 | 約 310 万円 |
| 800 万円 | 240 万円 | 560 万円 | 約 175 万円 | 約 385 万円 |
| 1,000 万円 | 300 万円 | 700 万円 | 約 240 万円 | 約 460 万円 |
→ 自分の売上で試算する: シミュレータで売上・経費を入力
注: 早見表の金額は概算です。控除の追加 (iDeCo・小規模企業共済・配偶者・扶養) や居住地、消費税の納税方式によって数十万円単位で変動します。
個人事業主が払う「6 つの支出」
売上が同じでも、業種・居住地・家族構成で手取りが変わるのは、以下 6 つの支出がそれぞれ別の論理で計算されるからです。
1. 所得税
事業所得から各種控除を引いた 課税所得 に、5〜45% の累進税率を掛けて算出します。さらに復興特別所得税 2.1% が上乗せされます12。
| 課税所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 〜195 万円 | 5% | 0 円 |
| 〜330 万円 | 10% | 97,500 円 |
| 〜695 万円 | 20% | 427,500 円 |
| 〜900 万円 | 23% | 636,000 円 |
| 〜1,800 万円 | 33% | 1,536,000 円 |
| 〜4,000 万円 | 40% | 2,796,000 円 |
| 4,000 万円超 | 45% | 4,796,000 円 |
2. 住民税
道府県民税と市町村民税を合わせた 所得割 10% と 均等割 5,000 円 (市町村民税 3,000 円 + 道府県民税 1,000 円 + 森林環境税 1,000 円) で構成されます34。所得税と違って、課税所得を出すときの控除額が一部小さい (基礎控除は 43 万円のまま) ため、所得税より住民税のほうが高くなるケースもあります。
3. 国民健康保険料
「医療分 + 後期高齢者支援金分 + (介護分)」のそれぞれで、「所得割 + 均等割 + 世帯割」を合算します。自治体ごとに料率が大きく違い、所得が同じでも住む場所で 10〜20 万円差がつくことがあります。CashOnHand は府県統一 8 県、23 特別区、政令市 15 を含む約 491 自治体の最新料率に対応し、未対応自治体は全国平均で概算します。
4. 国民年金保険料
令和8年度は 月額 17,920 円、年額 215,040 円の固定額です5。所得に関係なく定額で、月払い・前納のいずれを選んでも金額は同じ (前納割引はあり)。任意で付加保険料 月 400 円を上乗せできます。
5. 消費税
基準期間 (2 年前) の課税売上が 1,000 万円を超える、またはインボイス登録した小規模事業者は課税事業者になります。納税方式は 原則課税 / 簡易課税 / インボイス経過措置 の 3 種です6。
- 令和5年10月〜令和8年9月: 2 割特例 (売上消費税 × 20% を納税)
- 令和8年10月〜令和11年9月: 3 割特例 (簡易課税 + 仕入控除 70%)
- 令和11年10月以降: 経過措置適用外
6. 個人事業税
事業所得 (青色申告特別控除は適用しない金額) から 事業主控除 290 万円 を引き、業種別税率を掛けます7。事業所得が 290 万円以下なら課税されません。
| 区分 | 業種例 | 税率 |
|---|---|---|
| 第 1 種事業 (37 業種) | 物品販売・請負・運送・出版・コンサルティング | 5% |
| 第 2 種事業 (3 業種) | 畜産・水産・薪炭製造 | 4% |
| 第 3 種事業 (30 業種) | 医業・弁護士・税理士・デザイナー・理美容 | 5% |
| 第 3 種特例 | あん摩・はり・きゅう・装蹄師 | 3% |
ITエンジニアやWebデザイナーの多くは「請負業」として第 1 種 5%、また知識・技能系は第 3 種 5% に分類されることが一般的です。
手取り計算の 5 ステップ
6 つの支出を計算する流れは、次の 5 ステップに整理できます。
- 事業所得を出す: 売上 − 経費 = 事業所得
- 課税所得を出す: 事業所得 − 青色申告特別控除 − 各種所得控除 (基礎・配偶者・扶養・社会保険料・小規模企業共済等掛金・生命保険料・地震保険料・寄附金・医療費 など) = 課税所得
- 税額を出す: 課税所得 × 税率 − 累進控除 = 所得税。住民税は別途、課税所得 × 10% + 均等割で計算
- 社会保険料を出す: 国民健康保険料 (居住地別) + 国民年金保険料 (定額)
- 手取りを出す: 事業所得 − 所得税 − 住民税 − 国民健康保険料 − 国民年金保険料 − 個人事業税 − 消費税 = 手取り
重要: 国民健康保険料と国民年金保険料は事業所得の段階で「経費」のように差し引かれるわけではなく、別途キャッシュで支払う必要があります。「事業所得 = 手取り」ではないことが、最初につまずきやすいポイントです。
→ 5 ステップを反映した試算をする: シミュレータで自分の条件を入力
控除の 2 タイプ — 「タダで効く控除」と「お金を出して効く控除」
節税の話題で見落とされがちなのが、控除には性質の違う 2 種類がある という点です。
A. 「タダで効く控除」 — 世帯属性や事業形態で自動的にもらえる
- 基礎控除: 令和8年度は 62 万円 (合計所得 2,350 万円以下)。R8/R9 限定で物価連動の追加加算あり8
- 配偶者控除・配偶者特別控除: 配偶者の所得に応じて最大 38 万円 (本人所得 900 万円以下)
- 扶養控除: 一般 38 万円、特定扶養 (19〜22 歳) 63 万円
- 青色申告特別控除: 最大 65 万円。e-Tax 提出 + 複式簿記が必須9
- 障害者控除・ひとり親控除・寡婦控除: 該当者が申告するだけで効く
これらは「該当している」ことが条件で、追加の支出はゼロ。取り逃しがあれば即修正したい控除 です。
B. 「お金を出して効く控除」 — 掛金や保険料を払うことで適用される
- iDeCo (個人型確定拠出年金): 個人事業主は月 75,000 円まで掛金が全額所得控除10
- 小規模企業共済: 月 1,000〜70,000 円で全額所得控除、廃業時の退職金代わり
- 生命保険料控除・地震保険料控除: 保険契約に応じて最大 12 万円 + 5 万円
- ふるさと納税 (寄附金控除): 自己負担 2,000 円 + 返礼品 (実質負担小)
これらは「節税効果」と「掛金の流出」の 両方 が同時に発生します。例えば iDeCo を月 5 万円積むと、所得税率 20% の人なら年 12 万円の節税ですが、その代わり年 60 万円が拠出に消えます。「節税できた」=「純粋に得をした」ではないのです。
唯一の例外がふるさと納税で、これは実質負担 2,000 円で返礼品が得られるため、所得が一定以上ある人にとっては純粋にプラスです。
→ A と B を分けて表示する: シミュレータの控除パネル では、自己拠出型控除を別フレームで表示し、節税効果と掛金流出を並べて確認できます。
限界税率を意識する — 1 万円の所得控除で何円戻るか
「控除が増えると税金が減る」のは事実ですが、減る金額は人によって違います。これを決めるのが「限界税率」です。
| 課税所得 | 所得税率 | 限界税率 (所得税+復興税+住民税) | 1 万円控除で戻る金額 |
|---|---|---|---|
| 〜195 万円 | 5% | 約 15% | 約 1,500 円 |
| 〜330 万円 | 10% | 約 20% | 約 2,000 円 |
| 〜695 万円 | 20% | 約 30% | 約 3,000 円 |
| 〜900 万円 | 23% | 約 33% | 約 3,300 円 |
| 〜1,800 万円 | 33% | 約 43% | 約 4,300 円 |
| 〜4,000 万円 | 40% | 約 50% | 約 5,000 円 |
例えば iDeCo を年 60 万円積んだ場合、課税所得 500 万円 (税率 20%) の人は約 18 万円の節税、課税所得 200 万円 (税率 10%) の人は約 12 万円の節税です。同じ拠出額でも、自分の所得帯で「効く金額」は変わります。
CashOnHand のシミュレータでは控除入力時に「この控除で戻る税金」の概算が即時表示されるため、「いくら拠出すれば、いくら戻るか」が直感的に分かります。
よくある質問
売上 800 万円の個人事業主の手取りはいくら?
経費率 30%・単身・青色 65 万控除・国民健康保険・課税事業者 (インボイス 2 割特例) の条件で、令和8年度はおおむね 380〜400 万円 が手取りの目安です。国保料率が自治体ごとに違うため幅が出ます。
青色申告で 65 万円控除を取るには?
(1) 複式簿記による帳簿付け、(2) 貸借対照表・損益計算書の添付、(3) e-Tax による電子申告 (または電子帳簿保存) の 3 点が要件です9。e-Tax を使わないと最大 55 万円に下がります。令和9年申告分からは 55 万円枠が廃止され、e-Tax 利用で 75 万円に拡大します。
ふるさと納税の上限は?
住民税所得割の概ね 20% が「特例分」の上限で、これに基本分 (10%) と所得税分が加わります。実質負担 2,000 円で寄附できる上限額は所得や家族構成で変わります。
iDeCo と小規模企業共済はどちらが節税効果が高い?
節税効果はどちらも掛金全額が所得控除になる点で同じです。違いは資金の出口にあり、iDeCo は原則 60 歳まで引き出せず老後資金専用、小規模企業共済は廃業時や役員退任時に受け取れます。
消費税はいつから払う?
基準期間 (2 年前) の課税売上高が 1,000 万円を超えると翌々年から課税事業者になります。インボイス登録すれば売上に関わらず課税事業者です6。
国民健康保険料はどう計算する?
「医療分 + 後期高齢者支援金分 + 介護分 (40〜64 歳のみ)」の合計で、それぞれ「所得割 + 均等割 + (世帯割)」の組み合わせです。賦課対象所得は前年の総所得金額から基礎控除 43 万円を引いた額です。
個人事業税はいつ・いくら払う?
前年の事業所得 (青色申告特別控除は適用しない金額) から事業主控除 290 万円を引き、業種別税率を掛けた額を 8 月と 11 月の 2 回に分けて納付します7。事業所得が 290 万円以下なら課税されません。
自分の手取りを正確に計算する
ここまで読んでも、自分の手取りが具体的にいくらになるかは、控除や居住地の組み合わせで大きく変わります。CashOnHand のシミュレータなら、売上・経費・控除・居住地を入力するだけで、令和8年度の 6 つの支出と手取りキャッシュフローを年次・月次で可視化できます。
→ シミュレータを開く (登録不要・無料・ローカル動作)
出典
Footnotes
-
国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm (最終確認 2026-05-28) ↩
-
国税庁「復興特別所得税」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/fukko_tokubetsu/index.htm (最終確認 2026-05-28) ↩
-
東京都主税局「個人住民税」 https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/life/kojin_ju (最終確認 2026-05-28) ↩
-
総務省「森林環境税及び森林環境譲与税」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_18.html (最終確認 2026-05-28) ↩
-
日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」 https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/kojin/2026/202604/0401.html (最終確認 2026-05-28) ↩
-
国税庁「インボイス制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm (最終確認 2026-05-28) ↩ ↩2
-
大阪府「個人事業税」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o050040/zei/alacarte/kojnjgyo.html (最終確認 2026-05-28) ↩ ↩2
-
国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/index.htm (最終確認 2026-05-28) ↩
-
国税庁「No.2072 青色申告特別控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm (最終確認 2026-05-28) ↩ ↩2
-
厚生労働省「確定拠出年金制度等の改正」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/index.html (最終確認 2026-05-28) ↩